【短編エッセイ #02 七右エ門窯】
「それじゃあ、つぎの休日見に行こうよ。」クリックひとつで何でも揃う時代なんだけど、料理をもっと目で味わえたり手にしっくりくる器、出会いたいね。そんな会話を交わしていた友人からのメッセージ。
量販店じゃなかった。テールランプがつらなる国道からおもむろに友人がハンドルを切った先は、予想を裏切る山ふところ。陶芸の里として知られる平清水だった。 地区の入口にはしるべがあって、そこには二百年にわたる陶業の歴史がしるされていた。さかのぼれば、江戸のころに窯を造り粗陶器を焼いた平泉寺が起源だとか。しかも道先にはその寺があるというし、まずは自分たちの足で散策してみないことには。
ふと見渡せば、あちこちで石碑が草木とたわむれていて、山岳信仰のなごりはいまも濃色だ。 姥神が佇む山門から三途の川に見立てた小川をこえると、天を突くような杉林の参道が続く。パラレルワールドの膜が張っているかのように、互いの声が共鳴する境界世界。 地名や寺号の由来であり、白蛇とともに清水が湧き出たと云い伝わる池が、こんこんと水面を揺らしている。
ささやかな願いごとと一緒に小銭をそっと賽銭箱へすべらせて、出口となる楼門へ。振り返ると、池の向こう側では大きなイモムシのような窯があんぐりと口をあけていた。 寺に隣接する七右エ門窯の店頭では、かつて初市で親しまれたという陶器の平清水だるまが、棚の上からじっとこちらを見おろしている。目うつりするほどの器が並び、“イモムシ窯”で焼かれた自然釉も好きな風合い。どれにしようかなぁ。 と、「いつでも陶芸体験ができますよ」のふいなひと言。器に見入っていたさなかの更なるトキメキに、ふたり顔を見合わせた。
すぐそばを小川が流れる教室で、二百年の伝統と技をぐっと凝縮したひとときの作陶。でも敷居は高くない。自分が思うままのカタチを、手回しろくろや手びねりで生んでいくだけ。休日まで取っておいたたくさんの“つもるハナシ”は、思いがけず湧いてきた集中力にみんな回収されてしまった。
「思うようにフチが整わない..」といった焦りも、「歪みや凹み、それも全部味わいになりますよ」のひと言で腑におちたから良しとしよう。
まち侘びたひと月半後の焼き上がり。気になっていた歪みが逆にしっくりと手に馴染んでくる。これに、どんな料理を盛ろうかな。手のかけられたものが、こんなにも想像力を膨らませてくれるなんて。
住所:山形県山形市平清水153営業時間:9:00~17:30陶芸体験:9:00~15:00( 受付時間)定休日:年中無休( 12月30日~1月5日まで陶芸教室は休み)お問合せ先:023-642-7777アクセス:【車】 JR山形駅から約15分。【バス】 JR山形駅前より「T21 芸術工科大学」 、「T22 西蔵王(野草園)」、「T23 西蔵王(神尾)」行きのいずれかのバスに乗車(バス約15分)、「平清水」バス停下車。徒歩約10分。駐車場:あり(30台)
伝統に磨かれた鋳型作りがなす曲線に唸り、自然の作用と職人の感性をかさねた着色に見惚れる。シンプルな佇まいに潜むのは、野趣と繊細がいり交じった美しさ…