山形駅前に歩みを進めると、いつもの見慣れた飲食店街が歩行者天国の美術館に様変わりし、夕暮れの灯りとともに別世界が現れてきた。数千本のロウソク絵画や巨大なチョークアートの中を彷徨い、仮装集団の演劇に見とれ、そして私たち自身が作品に交わることで変化していくデジタルアートに飛び込む。屋外ならではの壮大なアートの中で柔らかな灯りに照らされた人々の表情は、一様に朗らかだった。
あって当たり前と思っていた様々な繋がりが絶たれ、心や命が疲弊したこの時代だからこそ、奇をてらわず、価値観を強いることのない表現や体験のひとつひとつが、じっくりと心に作用してくる。大人も子どもも一緒になって楽しめることや、そこにいる全ての人たちと静かに共有する感動が、いつまでもこの場に居たいという気にさせるのだ。
クリエイティブな力は誰もが磨けて、誰もが共感し合える。そんな気付きを“街なかで体感するアート”は教えてくれた。常識だと思ってきたことや、どうせ○○だから仕方ないという諦めに対して、アートやデザインというのは見方を変えたり視点をずらしたりする役割があるのかもしれないとも。
次回もそのまた次も。この芸術祭が街の明るい兆しを予感させ、この街で暮らす喜びをあらためて見い出せる場に昇華していくのだろう。